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東京高等裁判所 昭和26年(う)2895号 判決

控訴人 被告人 金井成律こと金承黙及び金且烈の原審弁護人 大蔵敏彦

検察官 横川陽五郎関与

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人大蔵敏彦、同佐々木茂及び同上田誠吉共同作成名義の控訴趣意書と題する書面に記載してあるとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し左のとおり判断する。

第二の三について

前記言論及び新聞の自由に関する覚書第三項の「論議」とは必ずしも所論のような討論のみを意味するものではない。一方的主張も右「論議」に該当するものであり、且つ、右主張も必ずしも口頭による主張たるを要せず、文書を頒布することによつて、文書を通じて主張する場合をも含むものと解するを相当とする。従つて原判決が、被告人等が本件「朝鮮週報」を頒布することによつて、かかる論議を行つたものと判断をしたことは正当であつて、所論のような矛盾を冐し、或は理由を欠くものとすることはできない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 荒川省三 判事 堀義次)

弁護人の控訴趣意

第二点、原判決は理由を附せず又は理由にくいちがいがある。

三、「論議」というのは、一九四五年九月十日附言論及新聞の自由に関する覚書第三項中に規定してある文字であるが原文のデイスカッションの訳語であつて、一定の主題について議論をたゝかわせることである。しかるに原判決は、朝鮮週報を頒布したことを指して論議であると認定している。しかも、原判決引用の証言のどれをみても、たとえば、大村かね、井上丹令、鈴木ハル子、田村光男など各証人の証言によれば、右新聞を買うときに、「学校の資金にするためのアルバイトだから買つてくれ」という趣旨のことを言われたにすぎず、又証人勝又孝はその時朝鮮の戦争のことは何もいわなかつたと証言してをり、たかだか「これをみれば朝鮮の戦争がよくわかる」といつて売つていたというに過ぎないので、別紙(二)の内容について、被告人らが、これを買つた人達と話し合つたというようなことは原判決のあげる証拠のどれを見ても認定することはできない。

結局原判決は単に頒布したという行為を論議したものであると拡張して解釈せんとするものであり、かかる拡張解釈の許されないことは前段に述べた通りであり、原判決はこの点について矛盾を犯しているものであるか全く理由を欠いているものである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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